秘密の地図を描こう
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地球軍とオーブ軍の合同艦隊の動きを見張っていたカナードはため息をつくと双眼鏡を下ろした。
「あのお坊ちゃんは、また上手く乗せられたようだな」
利用されているだけだと認識していないのか。それとも、兵士は使い捨ての道具だと考えているのか。
おそらく、そのどちらもだろう。
「ともかく、連絡だけはしておいてやるか」
契約だからな、と続けた。
そのときだ。
「……誰だ?」
オーブ軍の旗艦と思える空母の上に地球軍の軍服を身にまとった男が現れた。
それだけならば放っておいただろう。
しかし、その男は一般士官とは異なる色の軍服を身にまとっている。その上、顔を隠すように仮面をつけていた。
「気になるな」
あいつの存在が、と思ったときだ。不意に仮面の男がこちらへと視線を向けてくる。
「……気づいているのか?」
自分の存在に、と思わず呟いてしまう。
いや、そんなはずはない。すぐにそう考え直す。
コーディネイターの視力だからこそ、ここから相手を確認することができるのだ。ナチュラルでは不可能だろう。
しかし、と心の中で呟く。
「コーディネイター並のナチュラルを作ろうとしている、と言う噂があったな」
あくまでも耳にしただけだが、とため息をついた。だが、自分が受けたあれこれのことを考えれば、あり得ない話ではないだろう。
「そういえば、キラ達が気にしている奴がいたな」
ひょっとしたら、あいつなのではないか……と付け加える。
「とりあえず、画像を確保しておくか」
あちらに行ったときについでに連中に確認させればいいだろう。そう判断をした。
「上手く撮れればいいんだが」
この距離では難しいだろうか。それでも参考にはなるだろう。そう判断をして、双眼鏡に付いているカメラを操作する。
その間も、相手はこちらを見つめたままだ。
「……とりあえず、撤退だな」
早々に、と呟くと、そのままきびすを返す。
そのまま歩き出した。
やがて、ここまで乗ってきた車までたどり着く。しかし、追撃はされていないようだ。
だが、ここで気を抜くわけにはいかない。
今まで戦場で培ってきた経験なのだろうか。何かが危険信号を伝えてきている。
それがなんなのかまではわからない。しかし、無視できないと言うこともわかっていた。
「……ばれた、と言うわけではないだろうが……」
自分の存在に、と呟く。
「そういえば、キラ達はそいつの気配がわかる、と言っていたな」
逆もあり得るのかもしれない。ならば、自分と《キラ》を間違えた可能性もあるのではないか。
そうだとするならば、余計に厄介だ。
「一応、それに関してはあいつに伝えておけばいいか」
ラウの顔を思い浮かべながらそう呟く。あの男であれば、適切な対処をしてくれるだろう。
「いっそ、俺もしばらくキラのそばにいた方がいいのかもしれないな」
自分の推測が間違っていなかったなら、あいつはキラの居場所をつかむだろう。今回、連中を見張っていたのが《キラ》だと誤解しているなら、真っ先に撃墜しようとしてくるのではないか。
彼がそう簡単に撃墜されることはない、と確信している。
それでも、万が一の可能性があるのではないか。
「あいつにはお荷物もくっついているしな」
あれを何とかすべきではないか。カナードはそう考える。だが、それは彼らの事情であって自分のそれではない。
「まぁ、あいつを守ってほしいとマルキオにも言われているし……あちらからも依頼を受けている。問題はないな」
そういうことにしておこう。そう呟くと車のエンジンをかけた。
「俺が合流するまで、何もなければいいが」
言葉とともにギアを入れる。そして、そのまま、アクセルを踏み込んだ。